お家寄席22・碁泥
さて、今日は碁泥です。
碁・将棋は夢中になると周りが見えなくなるようで、そこまで没頭される方がいたりいなかったり・・・。
それでは早速どうぞ。平成17年5月20日の作品です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
5月20日 碁・将棋に凝るってぇっと…
えー、いつものお笑いでございやす。よろしくお付き合い下さいまし。
本日は趣味のところで、「碁泥(ごどろ)」ってぇお笑いでござんすが、それにしても「しの字」が入る落語のなんと楽なことか…。いえね、あっしは前回「しの字嫌い」を演(や)ったんですがね。「お後がよろしいようで…」もろくに言えずに終わっちまいやしてね。
とにかく、「しの字」が解禁になりやしたんで、これでのびのびと演(や)らせていただけますな。
さて、昔から、碁や将棋ってぇもんは、凝るとやめられなくなりますな。
でも、なかにはしょうもねぇへぼ将棋なんかもありましてな。
「お前さん、手は? 何持ってるの?」
「随分ととったよ。え~と持ち駒はね、歩が3枚に、桂馬だろ? 銀2枚に金1枚、角1枚、そして王様が1枚、と…」
「え? そんなに取ったの? 何々? 歩に桂馬、銀に金、角に王様…。 え? 王様? あれ~? いつの間にこっちの王様がないよ。道理でさっきっからなんとなく寂しいと思ってたんだ。いつとったんだい?」
「いつって、さっき『王手飛車取り』って言ったとき、お前さんは『そうは行くか』って飛車が逃げちまったじゃないか。だからこっちも飛車を取りたかったのに、しょうがなく王様を取ったのさ。この王様を今どこに打つか迷ってるところなんだよ」
なんて、これじゃあ、どっちもどっちっす。わけがわかんないっすな。
碁の場合も、ひどいのもあったりして。
「あれ? やってるね? 楽しそうだねぇ。え? あなた、そこに打つんですか? およしなさいな、そこは負けますよ。ほら、すでに相手は四目並んでるよ、そこを打っちまうと負けちゃうよ…」
「…ちょっと静かにして下さいよ」
「だって、四目…、あれ、そっちは六目並んでるねぇ。あ、これ、本碁か?」
「なんですか。本郷(ほんご)も下谷もないんだから。碁を知らないんだったら黙ってて下さいな」
「…向こうの端の石、危ないよ」
「黙ってて下さい。そこはもう目が出来てるから大丈夫ですよ」
「いや、危ないよ」
「どうして危ないんですか?」
「一番向こうの端の石、…ほ~ら、盤から落ちた」
こんなんではひどすぎますな。
玄関でばったり会った、碁仲間が…。
「ごめん下さいまし。今ちょうど、私も時間が空いたんで、お宅様にお会いして碁を打とうと思ってたとこなんですよ。どうですか? 一局いかがですか?」
「それがですね。残念なんですが、もう当分あなたと碁を打てなくなっちゃったんですよ。それはあなたにも罪があるんですがね。私もあなたも碁が好きだが、お互い、タバコがもっと好きでしょ? 今朝、掃除して気付いたんですがね。絨毯(じゅうたん)をひっくり返してみたら、あっちこっちに、タバコの焼けっ焦がしだらけなんですよ。まあ、中に入ってご覧下さいな。実はこれ、あなたと私で作ったんですよ。毛足の長い絨毯なんで今までわかんなかったんですけどね。ひっくり返したらこうなっちゃってましてね。うちの奥がこれじゃあ危ないからって言うんで、当分碁が打てなくなってしまったっていう次第なんですよ」
「…そうだったんですか。そんな粗相(そそう)をしましたか? それは大変に失礼をいたしました。いえ、奥様のおっしゃるのもごもっともです。でも、残念ですなぁ。碁を打てなくなるとつまりませんなぁ…。そうだ、どうでしょう? この場所をたたきにするのは?」
「碁のためだけにここをたたきには出来ませんよ」
「そうですか。じゃ、こうしましょう。お互い、裸になって、お宅様のお池でやりませんか?」
「裸になって、どうするんですか?」
「裸になって、パンツ一丁で、碁盤(ごばん)の足に紐をくくりつけるんですよ。それでお互いに肩にかけるんです、駅の弁当売りみたいに。あと、碁石のほうは魚を入れる魚籠(びく)を使ってね、碁石を洗いながら、ジャブジャブ、ピシャン、と」
「そんなわけには行きませんよ。…じゃ、こうしましょう。私たちはそんなに長い勝負をするわけではありません。ですから、碁をやってるときはタバコを我慢して、一局終わったらタバコをお尻からやにが出るほど吸いましょうよ。碁は碁、タバコはタバコ。これで行きませんか? 『おーい、それならいいか?』、あ、向こうで笑ってるよ。どうやらお許しが出たようだ。じゃあ、早速、始めましょう。この部屋にタバコ盆を持って行っちゃいけませんよ」
「わかりました。じゃ、早速やりましょうか」
早速、二人とも碁盤に急ぎやして…。相当お好きと見えて、着くや否や、それぞれ碁石を握ってますな。
「碁は碁、タバコはタバコと、まず、行きますか…」
パチ!
「では、私は、碁は碁、タバコはタバコと、この作戦で」
パチ!
「なるほどね、碁は碁、タバコはタバコだね。ならばこう打ちますか」
パチ!
「ほう、そう来ましたか。じゃ、私はここに碁は碁、タバコはタバコ、と」
パチ!
「そう来ましたか、そう来るのでしたら、私はここに碁は碁と打ちますよ」
パチ!
「そうですか。ならばさらに私は、ここにタバコはタバコと…。あ、これはいいタバコですな」
パチ!
「うーん、では私はここにタバコはタバコと。ん? さっきのは悪いタバコだったかな? さっきのタバコの関連タバコ…、ちょっとお待ちタバコ…うーん、これは考えタバコですな…」
無意識に着物の袂(たもと)から、煙管(キセル)を出しやすと、ご主人。
「…おい、火がないぞ!」
これには奥方もあきれやしてな。
「ほら、舌の根も乾かないうちから、うちのドンツク、すぐこれです。タバコ盆に火なんか持って行っちゃいけませんよ。また焼け焦がしが出来ちゃいますよ。かといって持って行かないと叱られますよ」
部屋からはいらいらした声。
「おーい、火はどうした! 火は!」
「はーい、ただいま。あ、そうだ、タバコ盆の中に火の代わりになる、ちょっと硬いものを入れておきましょう。あ、この紅しょうがでいいでしょう。タバコの灰の中に赤いのが見えればいいんですから」
火の代わりに紅しょうがを入れて、いそいそと碁をしてる部屋へ使いのものに持って行かせやす。
「早くしなさい。早く。で、タバコ盆をそっちに置きなさい。置いたら部屋を閉めて、そうそう。…えー、ちょっと考えさせて下さいよ。まだ、考えタバコですからね…」
考えながら、煙管(キセル)の先に火種を近づけますがつくわけありませんな。なにしろ、紅しょうがなんですからな。
「あー、このタバコ、しけってる」
これなら安心と奥方、湯に行ってしまいましてな。
運の悪いことに、この間、泥棒が入りやした。
泥棒、誰もいないのを見計らって、ひととおり金品、着物を盗みますってぇっと、よっこらしょっと風呂敷包みを担ぎやしたが、部屋の向こうから碁の打つ音が、パチン。パチン。
ところが、この泥棒、二人に輪をかけて碁が好きなんですな。
「うー、いい碁盤の音だねぇ。これはきっとかやの分厚いやつなんだろうな。う、たまらねぇ。ちょっと覗いて…ごめんくださいやし」
まさか泥棒が入ったなんて、ましてや碁を見に来たなんて、つゆ知らず。二人が夢中になってやってますってぇっと、
「ほう、いいところですなぁ。一目を争う天王山ですな。いいところで!」
「シー、静かにして下さいよ。今、大変なところなんだから…」
パチ!
「そうでしょうねぇ。あ、あなたそこに打つんですか? それはちょっとおやめになった方が」
「静かにして下さいよ。岡目八目は勝手ですが…」
…ふと手を止め、ご主人、ひょいと見るってぇっと、見慣れねぇ顔。
「あなたは誰ですか、と行きましょう」
パチ!
「では私はこちらに、あなたは誰ですか、と打ちましょう」
パチ!
「…エヘヘ、あっしは泥棒なんです」
「じゃ私は、ここに、泥棒さんか、と行きましょう」
パチ!
「私は、こっちに泥棒さんか、と行きますよ」
パチ!
「お、いい泥棒だねぇ。これは、うまい泥棒だったねぇ…」
「泥棒さん、景気はいかが? と打ちましょう」
パチ!
「エヘヘ、それが、この家に入って、こんなにどっさり戦利品が…」
「泥棒さん、それは良かったですね、と打ちましょう」
パチ!
「それではまたちょいちょい、いらっしゃい、…と」
パチ!
ばかに暢気(のんき)な人たちもあったようで…、「碁泥」の一席でした。
m<●>m!
碁・将棋は夢中になると周りが見えなくなるようで、そこまで没頭される方がいたりいなかったり・・・。
それでは早速どうぞ。平成17年5月20日の作品です。
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5月20日 碁・将棋に凝るってぇっと…
えー、いつものお笑いでございやす。よろしくお付き合い下さいまし。
本日は趣味のところで、「碁泥(ごどろ)」ってぇお笑いでござんすが、それにしても「しの字」が入る落語のなんと楽なことか…。いえね、あっしは前回「しの字嫌い」を演(や)ったんですがね。「お後がよろしいようで…」もろくに言えずに終わっちまいやしてね。
とにかく、「しの字」が解禁になりやしたんで、これでのびのびと演(や)らせていただけますな。
さて、昔から、碁や将棋ってぇもんは、凝るとやめられなくなりますな。
でも、なかにはしょうもねぇへぼ将棋なんかもありましてな。
「お前さん、手は? 何持ってるの?」
「随分ととったよ。え~と持ち駒はね、歩が3枚に、桂馬だろ? 銀2枚に金1枚、角1枚、そして王様が1枚、と…」
「え? そんなに取ったの? 何々? 歩に桂馬、銀に金、角に王様…。 え? 王様? あれ~? いつの間にこっちの王様がないよ。道理でさっきっからなんとなく寂しいと思ってたんだ。いつとったんだい?」
「いつって、さっき『王手飛車取り』って言ったとき、お前さんは『そうは行くか』って飛車が逃げちまったじゃないか。だからこっちも飛車を取りたかったのに、しょうがなく王様を取ったのさ。この王様を今どこに打つか迷ってるところなんだよ」
なんて、これじゃあ、どっちもどっちっす。わけがわかんないっすな。
碁の場合も、ひどいのもあったりして。
「あれ? やってるね? 楽しそうだねぇ。え? あなた、そこに打つんですか? およしなさいな、そこは負けますよ。ほら、すでに相手は四目並んでるよ、そこを打っちまうと負けちゃうよ…」
「…ちょっと静かにして下さいよ」
「だって、四目…、あれ、そっちは六目並んでるねぇ。あ、これ、本碁か?」
「なんですか。本郷(ほんご)も下谷もないんだから。碁を知らないんだったら黙ってて下さいな」
「…向こうの端の石、危ないよ」
「黙ってて下さい。そこはもう目が出来てるから大丈夫ですよ」
「いや、危ないよ」
「どうして危ないんですか?」
「一番向こうの端の石、…ほ~ら、盤から落ちた」
こんなんではひどすぎますな。
玄関でばったり会った、碁仲間が…。
「ごめん下さいまし。今ちょうど、私も時間が空いたんで、お宅様にお会いして碁を打とうと思ってたとこなんですよ。どうですか? 一局いかがですか?」
「それがですね。残念なんですが、もう当分あなたと碁を打てなくなっちゃったんですよ。それはあなたにも罪があるんですがね。私もあなたも碁が好きだが、お互い、タバコがもっと好きでしょ? 今朝、掃除して気付いたんですがね。絨毯(じゅうたん)をひっくり返してみたら、あっちこっちに、タバコの焼けっ焦がしだらけなんですよ。まあ、中に入ってご覧下さいな。実はこれ、あなたと私で作ったんですよ。毛足の長い絨毯なんで今までわかんなかったんですけどね。ひっくり返したらこうなっちゃってましてね。うちの奥がこれじゃあ危ないからって言うんで、当分碁が打てなくなってしまったっていう次第なんですよ」
「…そうだったんですか。そんな粗相(そそう)をしましたか? それは大変に失礼をいたしました。いえ、奥様のおっしゃるのもごもっともです。でも、残念ですなぁ。碁を打てなくなるとつまりませんなぁ…。そうだ、どうでしょう? この場所をたたきにするのは?」
「碁のためだけにここをたたきには出来ませんよ」
「そうですか。じゃ、こうしましょう。お互い、裸になって、お宅様のお池でやりませんか?」
「裸になって、どうするんですか?」
「裸になって、パンツ一丁で、碁盤(ごばん)の足に紐をくくりつけるんですよ。それでお互いに肩にかけるんです、駅の弁当売りみたいに。あと、碁石のほうは魚を入れる魚籠(びく)を使ってね、碁石を洗いながら、ジャブジャブ、ピシャン、と」
「そんなわけには行きませんよ。…じゃ、こうしましょう。私たちはそんなに長い勝負をするわけではありません。ですから、碁をやってるときはタバコを我慢して、一局終わったらタバコをお尻からやにが出るほど吸いましょうよ。碁は碁、タバコはタバコ。これで行きませんか? 『おーい、それならいいか?』、あ、向こうで笑ってるよ。どうやらお許しが出たようだ。じゃあ、早速、始めましょう。この部屋にタバコ盆を持って行っちゃいけませんよ」
「わかりました。じゃ、早速やりましょうか」
早速、二人とも碁盤に急ぎやして…。相当お好きと見えて、着くや否や、それぞれ碁石を握ってますな。
「碁は碁、タバコはタバコと、まず、行きますか…」
パチ!
「では、私は、碁は碁、タバコはタバコと、この作戦で」
パチ!
「なるほどね、碁は碁、タバコはタバコだね。ならばこう打ちますか」
パチ!
「ほう、そう来ましたか。じゃ、私はここに碁は碁、タバコはタバコ、と」
パチ!
「そう来ましたか、そう来るのでしたら、私はここに碁は碁と打ちますよ」
パチ!
「そうですか。ならばさらに私は、ここにタバコはタバコと…。あ、これはいいタバコですな」
パチ!
「うーん、では私はここにタバコはタバコと。ん? さっきのは悪いタバコだったかな? さっきのタバコの関連タバコ…、ちょっとお待ちタバコ…うーん、これは考えタバコですな…」
無意識に着物の袂(たもと)から、煙管(キセル)を出しやすと、ご主人。
「…おい、火がないぞ!」
これには奥方もあきれやしてな。
「ほら、舌の根も乾かないうちから、うちのドンツク、すぐこれです。タバコ盆に火なんか持って行っちゃいけませんよ。また焼け焦がしが出来ちゃいますよ。かといって持って行かないと叱られますよ」
部屋からはいらいらした声。
「おーい、火はどうした! 火は!」
「はーい、ただいま。あ、そうだ、タバコ盆の中に火の代わりになる、ちょっと硬いものを入れておきましょう。あ、この紅しょうがでいいでしょう。タバコの灰の中に赤いのが見えればいいんですから」
火の代わりに紅しょうがを入れて、いそいそと碁をしてる部屋へ使いのものに持って行かせやす。
「早くしなさい。早く。で、タバコ盆をそっちに置きなさい。置いたら部屋を閉めて、そうそう。…えー、ちょっと考えさせて下さいよ。まだ、考えタバコですからね…」
考えながら、煙管(キセル)の先に火種を近づけますがつくわけありませんな。なにしろ、紅しょうがなんですからな。
「あー、このタバコ、しけってる」
これなら安心と奥方、湯に行ってしまいましてな。
運の悪いことに、この間、泥棒が入りやした。
泥棒、誰もいないのを見計らって、ひととおり金品、着物を盗みますってぇっと、よっこらしょっと風呂敷包みを担ぎやしたが、部屋の向こうから碁の打つ音が、パチン。パチン。
ところが、この泥棒、二人に輪をかけて碁が好きなんですな。
「うー、いい碁盤の音だねぇ。これはきっとかやの分厚いやつなんだろうな。う、たまらねぇ。ちょっと覗いて…ごめんくださいやし」
まさか泥棒が入ったなんて、ましてや碁を見に来たなんて、つゆ知らず。二人が夢中になってやってますってぇっと、
「ほう、いいところですなぁ。一目を争う天王山ですな。いいところで!」
「シー、静かにして下さいよ。今、大変なところなんだから…」
パチ!
「そうでしょうねぇ。あ、あなたそこに打つんですか? それはちょっとおやめになった方が」
「静かにして下さいよ。岡目八目は勝手ですが…」
…ふと手を止め、ご主人、ひょいと見るってぇっと、見慣れねぇ顔。
「あなたは誰ですか、と行きましょう」
パチ!
「では私はこちらに、あなたは誰ですか、と打ちましょう」
パチ!
「…エヘヘ、あっしは泥棒なんです」
「じゃ私は、ここに、泥棒さんか、と行きましょう」
パチ!
「私は、こっちに泥棒さんか、と行きますよ」
パチ!
「お、いい泥棒だねぇ。これは、うまい泥棒だったねぇ…」
「泥棒さん、景気はいかが? と打ちましょう」
パチ!
「エヘヘ、それが、この家に入って、こんなにどっさり戦利品が…」
「泥棒さん、それは良かったですね、と打ちましょう」
パチ!
「それではまたちょいちょい、いらっしゃい、…と」
パチ!
ばかに暢気(のんき)な人たちもあったようで…、「碁泥」の一席でした。
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