さて、今日は「紀州」の一席です。
徳川家から跡を継ぐのはどっちかという時、尾張側は、
トンテンカン、トンテンカン…
テンカトル、テンカトル…
なんて音を聞きます。
こいつは縁起いい!・・・と喜び勇んだんですけれども・・・。
あ、途中の駄洒落は粗忽亭のオリジナルですよ。
・・・ではこちらは、平成17年6月24日の作品です。
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こちら、たまに寄席をやっておりやす
ばかばかしい一席でお楽しみください
落語「お家寄席」はこちらです
「寝床」でございやすが、まあお付き合い下さいまし…
粗忽亭長兵衛
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6月24日 天下とるのは?…ドッチ!
人間というものは、神代の昔から、「げんかつぎ」が好きですな。
「げんかつぎ」のなかでも自分に都合のいいものに聞こえるなんてこともよくありまして。
ある日、博打(ばくち)に大負けして身包みまではがされた男が、田んぼの畦を歩いていますってぇっと、かえるが鳴きましてな。
「ハダカダハダカダ…、ハダカダハダカダ…」
これを聞いて男、頭に来やして、
「なんだと! 裸だとはなんだ! バカにしやがって!」
って、かえるをとっ捕まえて、
「おぅ! かえるのくせに、裸だとはなんだ! こいつ、ひねりつぶしてやる!」
ちょうどここを商家の旦那が通りやして、
「おい、何てことをするんだよ。かえるがかわいそうじゃねぇか」
「だって、こいつ博打で素寒貧(すかんぴん)になったあっしをハダカダ、ハダカダって鳴くんでぃ」
「だからって、生き物を殺すのはおよしよ。なら、ここに300文あるから、これでかえるを売っておくれ」
「旦那も変わってるねぇ。こんなかえるを売って欲しいのか? じゃ、500文でなら売ってやる」
「…足元を見たねぇ。…まあ、いいや。じゃ、ここに500文あるから売ってくれ」
男は喜び勇んでお金を受け取りやすってぇっと、かえるを旦那に渡しやして、
「儲かった、儲かった」
と帰っていきやす。
「おい、かえる…。こんなに近くで鳴くから人に捕まるんだぞ。今度はもうちっと、人目をはばかって鳴きなよ…」
かえるに話しながら逃がしてやりやす。
すると、かえるは、
「ダンナサン、イイ、オレキレキ…」
こう鳴いたそうで…。
かえるの恩情でもないんでしょうが、これも都合で聞こえたんでしょうがな。
徳川15代のうち、7代目の将軍がご他界になり、そのあとの8代将軍に誰を継がせたらいいかってことになったんですな。
勿論ですが、後の政(まつりごと)を司(つかさど)るのは御三家からってぇことでして、その御三家とは水戸藩、尾張藩、紀州藩でございやす。
そのうち水戸藩はもうご老体でして、ご隠居様でしたので、残りのどちらを8代将軍にしたらいいのかってぇんで、本家はどちらに天下を取らせたらいいのか、紀州と尾張を呼び、それぞれの意思を聞こうってことになりやした。
この噂を耳にした尾張藩、我が天下を取らせ給えと、嗽手水(うがい、ちょうず)に身を清めやして、もう神がかりですな。
さて、召集の当日、お上りの途中で、「げんかつぎ」ですな…。鍛冶屋(かじや)の槌音(つちおと)が聞こえて来やして、
トンテンカン、トンテンカン…
テンカトル、テンカトル…
って音がしやす。
「ほう、幸先いいな。天下取る…か。この8代を継ぐのは尾張だということか…」
すっかり気を良くしましてな。
トンテンカン、トンテンカン…
テンカトル、テンカトル…
いよいよ大評定(だいひょうじょう)でして、
「下万民扶育(しもばんみんふいく)のため、仕官あって然るべし?」
えー、現代語訳に意訳しますってぇっと、
「下々の万民を助けると思って、仕官になってくれまいか?」
徳川家からのお言葉に、尾張は、
「余は徳薄(うす)うして、その任にあらず」
これも意訳しやしょう…。
「私は徳が薄いので、まだその地位まで行ってません(から、ご辞退します)」
なんと断っちまったんですな。
これは尾張の作戦で、こう言っておけば紀州も遠慮するに相違ないと…、ああ、なんて奥床しいんだ自分は、と。
ナルシストになっちまいやしてな。
さて紀州はって言いやすと、
「余は徳薄うして、その任にあらず…」
と、ここまでは同じですな。
「…然れども下万民の為とあらば任官いたすべし」
意訳しやすよ…。
「…だけど、下々の方のためなら、しょうがないな。(尾張に断られたし、かわいそうじゃねぇか)、引き受けるよ」
紀州が一枚上手でしたな。
紀州だけに、難航(南高)するかと思ってたのに、うめぇ(梅)話が転がり込んだってぇことで。これぞ奇襲(紀州)攻撃ですな。
これをきいて、尾張、
「ああ、見栄は張るもんじゃないな…」
なんて、心は和やか(名古屋か)にはなれませんですな。
とにかく、見栄(三重)をはさんだ愛知と和歌山、いや尾張と紀州ってわけなんですな。
半分諦(あきら)め、がっかりしながら帰途につきやすが、例の鍛冶屋の前を通りやすってぇっと、まだ、
トンテンカン、トンテンカン…
テンカトル、テンカトル…
と槌(つち)を打ってやして…。
「はて…。まだ天下取ると聞こえてるな。さては紀州は、進言はしたものの、まだ早いから尾張に任すっていう使者が遣(よこ)されることもあるのかな…。それにしても槌(つち)の音(ね)とはいいもんじゃな。しばらく聞いていようか…」
トンテンカントンテンカン…
テンカトルテンカトル…
ところが鍛冶屋の親方、真っ赤に焼けた鉄を水につけたんで、天下を取るのは、
「キ・シュ・ー…」 これにて、一巻の終わり(尾張)ですな。…「紀州」の一席でした。
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