さて、今日は「死ぬなら今」の一席でご機嫌をお伺いします。
こちらの落語は、フレーズがそのまんまオチになっております。
なぜそうなるのかは・・・ご覧になってのお楽しみ。^±^
・・・ではこちらは、平成17年8月27日の作品です。
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8月27日 ある意味、シモネタより危ない落語
8月ももう終わりですが、いつまでも暑い日が続きますな。
お盆もとっくに終わりやして…秋はお萩のお彼岸に…。
ところで、無言の圧力か、ご時勢か、禁演落語に近いもんになってるんで、誰も怖がって演じねぇんです。
演目は先に言っちまいやすが、「死ぬなら今」ってぇ、縁起でもねぇ落語なんでござんす。
ちょいとオリジナルも入れやしたが、まあ、あっしの勇気に免じて、冗談半分いや、十割冗談でお聞きくだせぇやし…。
…死ぬなら今でございやすよ。
何でかって言いやすと、前回の「ばけもの使い」で散々、人間、狸とこき使い、着々と小銭を貯めた吝兵衛(けちべえ)、一代で身上を築いたのにもかかわらず、この期(ご)に及んで、まだ貯めようって魂胆(こんたん)で、こんなご隠居には必ず誰かから恨みを買いやすな。
あまりに悪いことをした天罰でござんすかねぇ、吝兵衛、原因不明の重い病に斃(たお)れやした。
ここで吝兵衛、やっと自分の非に気付いたんですが、時すでに遅しでしてな、そのまんま不治の病(ふじのやまい)となり、余命幾許(いくばく)もなくなりやした。
で、いよいよってぇ今際の際(いまわのきわ)に、息子に遺言を託したんですな。
「わしはもうこのとおりの体じゃ。息子や、頼みがある…。わしはこの世じゃ随分と阿漕(あこぎ)なことをした。きっと地獄へ行くじゃろう…。じゃからあの世で心を入れ替え、極楽へ行きたいんじゃ。息子や、どうか頭陀袋(ずだぶくろ)に三途(さんず)の川の渡し賃、三百両を棺桶に入れておくれ」
「え? どうしてだぃ? おとっつあん」
「三百両あれば、閻魔大王にそれを差し出して、極楽に渡してもらえるかもしれないんじゃ」
「うん。わかった…。おとっつあん」
そう言うや否や、吝兵衛(けちべえ)、息を引き取りやす。
ところが葬式で、がめつい親戚がいたんですな。
息子が頭陀袋(ずだぶくろ)に三百両を入れようとするってぇっと、横槍(よこやり)が入りやす。
「え? 三百両? 三途の川の渡し賃だって? ああ、勿体(もったい)ねぇ、勿体ねぇ…。小判を土に埋めるんなら、贋金(にせがね)を棺桶に入れておけ。まあ、景気づけだ。どうせ贋金でぃ、五百両ほど入れとけ」
こんな感じで、棺桶の頭陀袋には芝居で使う偽小判(にせこばん)を入れられ、吝兵衛は西方へ旅立ちやしてな。
さて、こちらはところ変わって地獄の入り口でして。
「はい! 並んで、並んで! こら、横から入るな、馬鹿!」
入り口に警備員がおりやして、これがまた横柄(おうへい)でしてな。おまけに厳(いかめ)しい強面(こわもて)でじろっと睨むんで、粗忽亭なんぞ、びびっちまいやすな。
吝兵衛(けちべえ)、早速閻魔大王(えんまだいおう)の元に連れられやして。
「吝兵衛、お前さんは地獄だな。完全に地獄だ」
「閻魔大王様。そこをなんとか…このお金で…」
吝兵衛が頭陀袋からお金を探るってぇっと、三百両どころか五百両もあるんで、まず、百両ほど大王様の袖の下に…。
「な、なんじゃ? これは…」
「百両でございますんじゃ」
「な、この閻魔大王を買収する気か?」
「いや、そんなつもりじゃございませんで…」
「まあ、お前さんはかなり悪いことをしたが、こうやって一代で金を貯めるとはできるな…う~む。じゃ、こうしよう。あと百両出したらお前さんを極楽へ斡旋(あっせん)しよう」
「ありがとうごぜぇます」
ところがその現場を見た牛頭馬頭(ごずめず)が、
「閻魔大王、賄賂(わいろ)見っけ! エンマチョ切った、指切った。賄賂とあっては極楽へ行かせるのを認められないなぁ…」
「まあまあ、牛頭馬頭様。どうかこの百両で」
「…まあ、じゃ、俺もお前さんを推薦しよう」
するってぇっと、赤鬼、青鬼からその手下の魑魅魍魎(ちみもうりょう)どもにまで吝兵衛のところへやって来やして。
吝兵衛は、次(つ)ごう五百両を全部地獄で使って、ようやく極楽行きの切符を貰いやす。
これでめでたく吝兵衛、天下りならぬ天上りで極楽へ。
…まるで政治家のような、ゼネコンの談合のような話でしてな。釈然としませんな。
その夜、閻魔大王ら一行は久々の大金を手にしたんで舞い上がっちまったんですな。
「おい、牛頭くん。久しぶりに新宿二丁目あたりでパーっといこう!」
「そうですな。おい、赤鬼、青鬼。お前らも行くか?」
「へぇ、行きますとも。おい、鬼太郎、君は行くかね?」
「はい、目玉の父ちゃんも連れて…」
「オイ鬼太郎。ネズミ男は臭いから連れて行くなよ」
新宿二丁目界隈は飲めや歌えや。
ところが、二次会のストリップ劇場で、警察の手入れが入っちまいやして…。別件逮捕…のはずだったんですが、おまけに贋金(にせがね)がばれちまいやして。
これで閻魔(えんま)大王も、牛頭馬頭(ごずめず)も、赤鬼青鬼も、それから手下の魑魅魍魎(ちみもうりょう)どもも全員牢屋にぶち込まれやしてな。
吝兵衛はっていうと、こちらも収賄罪で逮捕され、再び地獄の牢屋へ…。
さてさて、前代未聞といいますか、空前絶後の大事件で、これで地獄を統括するものが誰も居なくなりやした。
閻魔帳(えんまちょう)には、
「本日より当分の間閉店します」
なんて書かれてありやしてな。
せっかく地獄に来た連中も、途方に暮れる始末でして。
「あっしらは、どこへ行けばいいんでぃ」
なんて、クレームも飛び交うんで、地獄の入り口にいる警備員さんなんぞも、
「じゃ、とりあえず極楽へ行ってください」
苦しい言い訳でしてな…。
「なんだよ、せっかく娑婆(しゃば)じゃ悪いことばっかりして、地獄めぐりを楽しみに来たのによぅ。しゃぁねぇから、心を入れ替えて極楽に行くか…」
「せっかくいらしたのに、相すいませんねぇ…。どうも」
普段、大威張りだった地獄の警備員もすっかり腰が低くなっちまいやしてな。
「ちっ、地獄の沙汰(さた)も金次第、って言うけどよう、贋金(にせがね)で捕まっちゃ、地獄も地に落ちたぜ」
地獄だから、もともと地に落ちてるんでござんすがねぇ…。
なかには怒号(どごう)、罵声(ばせい)まで飛びやして。
「天上り、反対!」
「こうなったら、この際、地獄も民営化しろよ!」
みんなぶつぶつ言いながらも、しょうがねぇからみんな極楽へ。
ですから、死ぬなら今…。 m<●>m!
テーマ : 落語
ジャンル : お笑い