お家寄席89・三方一両損
さて、今日は「三方一両損」の一席です。
こちらも、前日の大工調べと同じく、勧善懲悪系の落語です。
・・・ではこちらは、平成18年4月8日の作品です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
4月8日 三方一両損・・・
前回、「大工調べ」ってぇ噺をいたしましたが、今回も引き続き、お調べもんのお噂でご機嫌をお伺いいたしやす。
えー、あっしなんかは財布なんてめったに拾ったことなんぞないんですが、その分よく落としたりするんですが・・・。
そそっかしいといいますか、損な性分なようでして・・・。
ただ、やはり正直な方が多いようで、結構見つかるんですな。有難いことですな。見つけていただいた方には悪いんで、もちろん1割か2割の謝礼に加えて、それからちょっとした菓子折(かしおり)なんぞを、わざわざ電車に乗って持って行きやすってぇっと、結局、足が出たりしやしてな・・・。
まったく、損な性分ですな・・・。
まあ、落としたあっしが悪いんで、しょうがねぇんで・・・。
まあ、最近はめったに落としませんな。
落とすほどの金がねぇ・・・って情けない話でして・・・。
さて、兎角(とかく)江戸っ子は、つまらねぇ意地の張り合いなんかでよく損をする、なんてぇことが多いんですな。
こちらは白壁町(しらかべちょう)の左官金太郎、浅草は柳原(やなぎはら)をぶらぶら歩いてるってぇっと、財布が落ちてたんですな。
まあ、落ちてたんだから気になって当然それを拾いやすな。で、中を確かめてみるってぇっと、書付と印形(いんぎょう)、それから3両の金が入ってやす。
で、書付を見やすってぇっと、
「神田竪大工町(かんだたてだいくちょう)、大工吉五郎」
とありやしたんで、早速、周りにその場所を尋ねながら、わざわざ吉五郎のところまで届けに行きやしてな。
「まっぴらごめんねぃ! まっぴらごめんねぃ!」
「いってぇ誰でぃ! 表でぴらぴら言いやがるのは・・・!」
「あっしは白壁町の金太郎と申すもんでござんす。実は浅草の柳原で財布を拾ったんでお届けに参りやした」
「何だと? 財布だ?」
やっとこさ戸を開けやして、金太郎が持って来たその財布を確かめやして。
で、書付と印形(いんぎょう)だけ懐に入れて、財布ごと金太郎に放り投げ返しやす。
金太郎、あわくって、
「おい、財布は?・・・財布、おめぇさんのだろ?」
尋ねやす。すると、
「そんなもん、こっちの懐にいたくねぇから勝手に飛び出しちまった親不孝なやつだ。いらねぇやい! おめぇにくれてやるよ! 帰りにでもこいつで酒でも一杯煽(あお)って帰りやがれ」
その吉五郎の言い方が癪(しゃく)に障(さわ)ったんで、金太郎も、
「おい。吉五郎さんとかいったな・・・。てめぇ素直じゃねぇぞ。こっちが苦労して、やっとこさおめぇんちを見つけて届けてやったんだ。全部受け取るがいいじゃねぇか!」
「てやんでぃべらぼうめってぇんだ! てめぇ、余計なことしやがって・・・。てめぇがこの財布を拾ったからいけねぇんだ! おいらがいらねぇっていうんだから、てめぇこそ素直に受け取りやがれ!」
「何を? この頑固者(もん)め! てめぇの銭じゃねぇか! てめぇ・・・こちとら下手(したて)に出てりゃ付け上がりやがって・・・。このおいらを白壁町の左官、金太郎と知って喧嘩売りやがるのか! 上等だ! この大工(でぇく)野郎!」
「何をこの野郎! てめぇこそ左官野郎じゃねぇか! いいだろう・・・てめぇ! その喧嘩買ってやるよ! そんな汚(きた)ねぇ銭、とっとと持って帰りゃ痛(い)てぇ思いをしねぇですんだのに・・・! 覚悟しろい!」
こうなると売り言葉に買い言葉。
・・・言葉の売掛金に買掛金ですな。^±^
とうとう拳固(べんこ)で殴り合いの大喧嘩が勃発(ぼっぱつ)しやして。
吉五郎の大家が止めに入りやして、やっと喧嘩のほうはおさまったんですが、おさまらねぇのは例の財布と銭でして・・・。
しょうがねぇんで、大家が銭を預かることとなり、諸事情を聞き、金太郎に謝りやす。
「喧嘩の大音声(だいおんじょう)で耳にしたんじゃが、お前さん、金太郎さんっておっしゃるのかい? うちの吉五郎がとんだ悪いことをしたな・・・。せっかくお前さんが親切心で持って来た財布を、この馬鹿野郎が・・・。こいつのことは南町奉行のお白洲(しらす)の上で誤らせやすんで、ご勘弁ください! おい吉五郎! てめぇはなんてことをしたんだ!」
大家といえば親も同然、店子(たなこ)といえば子も同然でして。
店立て(たなだて)になるとそれこそ大変ですからな。
で、金太郎が帰って大家に話したら、
「馬鹿野郎! それはおめぇが悪い! どうして素直に受け取らなかった! それにしても向こうの大家、洒落た真似(しゃれたまね)しやがるぜ! 粋な野郎だな! 構うことねぇ! 訴えられるのを待つことはねぇよ。こっちから逆に訴えてやれ!」
さて、日を改めて、こちらは南町奉行所のお白洲・・・。
なにせ、双方が謝るっていう、それも銭はどっちも受けとらねぇっていう、前代未聞の、なんとも間抜けでばかばかしい訴えなんですがね・・・。
南町奉行所、大岡越前守(おおおかえちぜんのかみ)様に訴え、双方の言い分を聞くってぇっと、越前守、いたく感心しましてな。
「ほう、一方は拾った銭を届ける良心と、もう一方は銭は謝礼で受けとらぬ良心なのじゃな。どちらも言い分はとおる。よくわかったぞ。
・・・では、こうしよう。財布の中は3両ある。
そこに世が1両を進ぜよう。で、金太郎。そなたは拾った銭3両を受け取らなかった。よって3両の損となる。また、吉五郎。そなたは3両の銭を落とした。よってそなたも3両の損だ。だが、世が1両を進呈して、これを二分し、2両ずつ、そなたたちに、その良心の褒美(ほうび)として進ぜよう。
これで、双方とも3両損の2両得、差し引き1両損。世も1両差し出して1両損・・・したがって三方一両損ということでいかがかな? 受け取ってくれるかな?」
無事、裁きが終わりやして、越前守の計らいにより、お膳が出されやす。
よほど腹が減ったのか、二人ともがつがつ食ってますってぇっと・・・、大岡越前守(かみ)、お二方を諌めやす。
「ご両人、いかに空腹じゃからとて、あまりたんと食(しょく)するなよ」
するってぇっと、金太郎と吉五郎、口をそろえて、
「へへ、なーに、多くは(大岡)食わねぇ」
「たった、一膳(越前)」
まあ、これで、三方丸く収まったってぇ噺でして。
「三方一両損」っていうお笑いでした・・・。
m<●>m!
こちらも、前日の大工調べと同じく、勧善懲悪系の落語です。
・・・ではこちらは、平成18年4月8日の作品です。
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4月8日 三方一両損・・・
前回、「大工調べ」ってぇ噺をいたしましたが、今回も引き続き、お調べもんのお噂でご機嫌をお伺いいたしやす。
えー、あっしなんかは財布なんてめったに拾ったことなんぞないんですが、その分よく落としたりするんですが・・・。
そそっかしいといいますか、損な性分なようでして・・・。
ただ、やはり正直な方が多いようで、結構見つかるんですな。有難いことですな。見つけていただいた方には悪いんで、もちろん1割か2割の謝礼に加えて、それからちょっとした菓子折(かしおり)なんぞを、わざわざ電車に乗って持って行きやすってぇっと、結局、足が出たりしやしてな・・・。
まったく、損な性分ですな・・・。
まあ、落としたあっしが悪いんで、しょうがねぇんで・・・。
まあ、最近はめったに落としませんな。
落とすほどの金がねぇ・・・って情けない話でして・・・。
さて、兎角(とかく)江戸っ子は、つまらねぇ意地の張り合いなんかでよく損をする、なんてぇことが多いんですな。
こちらは白壁町(しらかべちょう)の左官金太郎、浅草は柳原(やなぎはら)をぶらぶら歩いてるってぇっと、財布が落ちてたんですな。
まあ、落ちてたんだから気になって当然それを拾いやすな。で、中を確かめてみるってぇっと、書付と印形(いんぎょう)、それから3両の金が入ってやす。
で、書付を見やすってぇっと、
「神田竪大工町(かんだたてだいくちょう)、大工吉五郎」
とありやしたんで、早速、周りにその場所を尋ねながら、わざわざ吉五郎のところまで届けに行きやしてな。
「まっぴらごめんねぃ! まっぴらごめんねぃ!」
「いってぇ誰でぃ! 表でぴらぴら言いやがるのは・・・!」
「あっしは白壁町の金太郎と申すもんでござんす。実は浅草の柳原で財布を拾ったんでお届けに参りやした」
「何だと? 財布だ?」
やっとこさ戸を開けやして、金太郎が持って来たその財布を確かめやして。
で、書付と印形(いんぎょう)だけ懐に入れて、財布ごと金太郎に放り投げ返しやす。
金太郎、あわくって、
「おい、財布は?・・・財布、おめぇさんのだろ?」
尋ねやす。すると、
「そんなもん、こっちの懐にいたくねぇから勝手に飛び出しちまった親不孝なやつだ。いらねぇやい! おめぇにくれてやるよ! 帰りにでもこいつで酒でも一杯煽(あお)って帰りやがれ」
その吉五郎の言い方が癪(しゃく)に障(さわ)ったんで、金太郎も、
「おい。吉五郎さんとかいったな・・・。てめぇ素直じゃねぇぞ。こっちが苦労して、やっとこさおめぇんちを見つけて届けてやったんだ。全部受け取るがいいじゃねぇか!」
「てやんでぃべらぼうめってぇんだ! てめぇ、余計なことしやがって・・・。てめぇがこの財布を拾ったからいけねぇんだ! おいらがいらねぇっていうんだから、てめぇこそ素直に受け取りやがれ!」
「何を? この頑固者(もん)め! てめぇの銭じゃねぇか! てめぇ・・・こちとら下手(したて)に出てりゃ付け上がりやがって・・・。このおいらを白壁町の左官、金太郎と知って喧嘩売りやがるのか! 上等だ! この大工(でぇく)野郎!」
「何をこの野郎! てめぇこそ左官野郎じゃねぇか! いいだろう・・・てめぇ! その喧嘩買ってやるよ! そんな汚(きた)ねぇ銭、とっとと持って帰りゃ痛(い)てぇ思いをしねぇですんだのに・・・! 覚悟しろい!」
こうなると売り言葉に買い言葉。
・・・言葉の売掛金に買掛金ですな。^±^
とうとう拳固(べんこ)で殴り合いの大喧嘩が勃発(ぼっぱつ)しやして。
吉五郎の大家が止めに入りやして、やっと喧嘩のほうはおさまったんですが、おさまらねぇのは例の財布と銭でして・・・。
しょうがねぇんで、大家が銭を預かることとなり、諸事情を聞き、金太郎に謝りやす。
「喧嘩の大音声(だいおんじょう)で耳にしたんじゃが、お前さん、金太郎さんっておっしゃるのかい? うちの吉五郎がとんだ悪いことをしたな・・・。せっかくお前さんが親切心で持って来た財布を、この馬鹿野郎が・・・。こいつのことは南町奉行のお白洲(しらす)の上で誤らせやすんで、ご勘弁ください! おい吉五郎! てめぇはなんてことをしたんだ!」
大家といえば親も同然、店子(たなこ)といえば子も同然でして。
店立て(たなだて)になるとそれこそ大変ですからな。
で、金太郎が帰って大家に話したら、
「馬鹿野郎! それはおめぇが悪い! どうして素直に受け取らなかった! それにしても向こうの大家、洒落た真似(しゃれたまね)しやがるぜ! 粋な野郎だな! 構うことねぇ! 訴えられるのを待つことはねぇよ。こっちから逆に訴えてやれ!」
さて、日を改めて、こちらは南町奉行所のお白洲・・・。
なにせ、双方が謝るっていう、それも銭はどっちも受けとらねぇっていう、前代未聞の、なんとも間抜けでばかばかしい訴えなんですがね・・・。
南町奉行所、大岡越前守(おおおかえちぜんのかみ)様に訴え、双方の言い分を聞くってぇっと、越前守、いたく感心しましてな。
「ほう、一方は拾った銭を届ける良心と、もう一方は銭は謝礼で受けとらぬ良心なのじゃな。どちらも言い分はとおる。よくわかったぞ。
・・・では、こうしよう。財布の中は3両ある。
そこに世が1両を進ぜよう。で、金太郎。そなたは拾った銭3両を受け取らなかった。よって3両の損となる。また、吉五郎。そなたは3両の銭を落とした。よってそなたも3両の損だ。だが、世が1両を進呈して、これを二分し、2両ずつ、そなたたちに、その良心の褒美(ほうび)として進ぜよう。
これで、双方とも3両損の2両得、差し引き1両損。世も1両差し出して1両損・・・したがって三方一両損ということでいかがかな? 受け取ってくれるかな?」
無事、裁きが終わりやして、越前守の計らいにより、お膳が出されやす。
よほど腹が減ったのか、二人ともがつがつ食ってますってぇっと・・・、大岡越前守(かみ)、お二方を諌めやす。
「ご両人、いかに空腹じゃからとて、あまりたんと食(しょく)するなよ」
するってぇっと、金太郎と吉五郎、口をそろえて、
「へへ、なーに、多くは(大岡)食わねぇ」
「たった、一膳(越前)」
まあ、これで、三方丸く収まったってぇ噺でして。
「三方一両損」っていうお笑いでした・・・。
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